地獄でなぜ悪い

作り物の世界

珈琲にまつわること

今週のお題「最近飲んでいるもの」

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珈琲が好きだ。
正確に言うと、誰かが淹れてくれた温かい珈琲が好きだ。

 

ちょっと気温が下がってきた、10月のある日。
いつものように大学について、いつものように勉強道具を机に並べる。
いつも話す先生に、いつもとは違う話をした。
「今、すごく辛いんです。」
そう言って、私はわんわん泣いた。たくさん泣いた。
ずっと体調が悪い、生きるのが辛いと言いながら。
先生は静かに聴いてくれて、私が少し落ち着くと
「コーヒー飲む?」
そう言って、マグカップにインスタントコーヒーの粉を入れて、お湯を注いで私の前に置いてくれた。
朝の静かな部屋で、私と先生は温かい珈琲を飲んだ。

 

これも、少し寒いある日のこと。
研究が佳境に差し掛かっていて、私はゼミの教授に相談すべく、研究室の扉を開いた。
先生は「ああ、深山さんか。コーヒーでも飲みますか」
そう言って、豆を選んで珈琲を淹れて、私の前に置いてくれた。
「それで、何か相談ですか」
いつもの落ち着いた口調でそう言われて、私たちは珈琲を飲みながら研究の相談を始めた。

 

これは、さらに寒くなったある日のこと。
いつものように大学行きのバスに乗っていると、研究室の教授が斜め前の席に座った。
「おはようございます」「ああ深山さんおはよう」
短い挨拶をして、大学に着いたところでバスを降りた。
「深山さん、コーヒーでも飲みますか」
授業までの短い時間、朝陽が差す研究室で、先生とふたり、静かに会話した。
「じゃあ、授業にいってきます」
先生にそう言って研究室を出ると、なんだかお腹の辺りがふわふわと温かい心地がするのだった。

 

珈琲には、それも、誰かの淹れてくれた温かい珈琲にはそれでしか得られない滋養があると思う。
私もいつか、そんな滋養のある珈琲を、誰かに淹れてあげられる人になれるだろうか。